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犬が悪さをした直後に叱るべき?犬の記憶力についての研究

犬が悪さをした直後に叱るべき?

「犬は自分のしたことをすぐに忘れるから、悪いことをした直後に叱らないと意味がない。」とよく耳にします。犬は本当に記憶力が悪く、数秒前の出来事しか思い出せないのでしょうか?

記憶の種類


まず初めに、記憶にはいくつかの種類があるのをご存知でしょうか。
心理学上では、記憶の保持時間に着目すると以下の3つに分類することができます。

①感覚記憶

私たち人を含む動物の身の回りには、常に多くの情報が溢れています。ただ、ほとんどの情報は生存していくうえで重要な情報ではありません。そのため、ほとんどの情報は短時間だけ保存され、すぐに消えていきます。

例えば、私たちが道を歩いているときに、すれ違う人の顔は目で見えているはずなのですが、例え5秒後に顔を思い出そうとしても難しいでしょう。これは、「感覚記憶」として脳が処理しているからです。

感覚記憶の多くは、情報が脳に入ってから約1秒後に失われるといわれています。ただ、もし情報が「何らかの意味のあるもの」と脳が認識した場合は、次の「短期記憶」の段階へ送られます。

②短期記憶

短期記憶は、一時的に必要な情報を保存し、その情報をすぐに使う場合などに使用されます。

例えば、電話番号を暗記して、電話をかけたとします。ただ、その電話番号を1時間後に思い出そうとしても、なかなか思い出すことが難しいでしょう。これは、「短期記憶」として脳が処理しているからです。

短期記憶は、最高約7つまでしか保存できず、その記憶時間は約10秒~15秒、長くても1分程しか保存できないと言われています。記憶の必要性が高いと脳が判断した場合、次の「長期記憶」の段階へ送られます。

③長期記憶

 長期記憶とは、長期に残る記憶のことです。一般的に記憶と呼ばれるものは、この長期記憶のことで、半永久的に残ると言われています。

例えば、人間が言葉を使って会話することが出来るのは、言葉の音とその意味を関連付けて長期的に記憶することが出来るからです。

長期記憶を細分化すると、いくつかの種類があります。経験に基づく「エピソード記憶」、言葉の意味や知識などの「意味記憶」、自転車の乗り方や楽器の弾き方など動作として身に付けた「手続き記憶」などがあります。

エピソード記憶


長期記憶を細分化すると、エピソード記憶というものがあります。これは、長期的に脳に残り、経験した出来事に関する記憶のことです。経験をしたときの周囲の状況や、そのときの感情もエピソード記憶に含まれます。

例えば「去年、温泉旅行にいった」という記憶はエピソード記憶に分類されます。

人間の場合は言葉で過去のことを相手に伝えることが出来るため、エピソード記憶を保持しているのか否か、容易に分かります。しかし、動物は言葉を話すことが出来ないため、エピソード記憶を保持しているのかどうかを判別することが非常に難しいとされてきました。

そんな中、ハンガリーのエトヴェシュ・ローラン大学で犬のエピソード記憶を証明する研究が行われました。

犬に長期記憶はあるのか?


犬にエピソード記憶(長期記憶)はあるのかどうかを判断するため、まず初めに犬に「真似をしてごらん」という指示を覚えさせました。

ある特定の行動を真似することに対し、報酬を与ることで、人間が見せた直前の行動を真似するよう犬を訓練します。このトレーニングを17頭の犬に実施し、テストの成績を比較しました。

まずは、人間が犬に行動を見せてから「真似してごらん」という指示を出すまでの間に1分間のインターバル(空き時間)をおきました。その結果、犬が人間の動きを覚えることに義務感を抱いている状況では、100%の成功率でした。一方で、義務感を抱いていない状況でも、59%の成功率でした。

次に、人間が犬に行動を見せてから「真似してごらん」という指示を出すまでの間に、1時間のインターバルをおきました。(犬を車に入れる、犬小屋に入れるなど)その結果、犬が人間の動きを覚えることに義務感を抱いている状況では、83%の成功率でした。一方、義務感を抱いていない状況では、35%でした。

以上から、犬は周囲の様子を記憶することを要求されていないにも関わらず、きちんと記憶していることが証明されました。

以上の研究から、犬は直前の出来事でなくても記憶していることが証明されました。つまり、犬はエピソード記憶(長期記憶)を保持している可能性がかなり高いといえます。

犬は本当に忘れっぽいか?


犬の記憶

では、犬はエピソード記憶を持っているにも関わらず、なぜ好ましくないことをした直後に叱らないと理解できないと言われるのでしょうか。

例えば、犬が留守番中に家を荒らしていたとします。帰ってきたあなたは、家の状態を見て、犬を叱るかもしれません。しかし、このように犬を叱ったとしても犬はなぜ叱られているのか理解するのは難しいでしょう。

なぜなら、仮に犬が「家を荒らした」というエピソード記憶を保持していたとしても、飼い主が帰ってくるまで家を荒らす以外に他のこと(寝たり、走ったり)もしているため、飼い主が何に対して叱っているのか判断することができません。

そして、突如叱られた犬は、その直前に行っていた行動と飼い主からの罰を結び付ける可能性が非常に高くなります。よって、犬は好ましくない行動の直後に叱らないと理解することが難しいです。

人間で例えると、あなたが急に言葉が全く通じない国に連れて行かれ、現地民の家庭で生活するとします。あなたが朝起きて、顔を洗っているときに、現地民がいきなり大きな声で怒鳴ってきたら、あなたはどう思うでしょうか。怒鳴られる直前の行動である「顔を洗う」ことに対してだと解釈してしまいませんか。

犬は人間と言葉を用いてコミュニケーションをとれない分、このような誤解が生まれてしまいます。人と犬では過去の物事を正確に共有するコミュニケーション手段がありません。そのため、その場その瞬間に、人が犬に伝えなければ、犬は理解することが難しいでしょう。

また同様に、好ましい行動をした際も、行動の直後にご褒美を与えないと効果があらわれにくいといえます。

~参考文献~
・Fugazza,C., Pogány,A., Miklósi,A., footnotes,S.(2016)Recall of Others’ Actions after Incidental Encoding Reveals Episodic-like Memory in Dogs, Elsevier Inc