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手作り食は「加熱食」と「生肉食」どちらがよいか?

つじ
つじ

大阪で活動している認定ドッグビヘイビアリストです


南イリノイ大学で犬猫の基礎栄養学~臨床栄養学を学び、総合栄養食の手作り食レシピ作成も行っています。

犬の手作り食は、大きく分けると、「加熱食」「生肉食」の2つのカテゴリーに分けられます。

どちらが優れているかについては「加熱食」と「生肉食」どちらか片方を好む人たち(一般の飼い主やプロの栄養士など)によって、世界的に熱く議論されています。

例えば、「生肉食推奨派」の意見で良く見かけるのは

生食派
生食派

加熱することで栄養素がなくなる!

生食派
生食派

解剖学的に犬は生肉を食べるように進化してきた!

が多いでしょうか。

一方で、「加熱食推奨派」の意見でよく見かけるのは

加熱食派
加熱食派

安全で栄養のあるものを愛犬に与えることができる!

加熱食派
加熱食派

加熱することで寄生虫や細菌リスクを回避できる!

が多いでしょうか。

では、具体的に「加熱食」と「生肉食」ではなにが違うのでしょうか?

※NRCなどの栄養ガイドラインを使用して、バランスの取れている食事であることを前提とします。

加熱食と生肉食のちがい

①含まれる栄養素の違い

水溶性ビタミン(ビタミンC、ビタミンB)などの栄養素は、

熱に弱い性質
水に溶けやすい性質

を持っています。

例えば、ほうれん草を茹できることでビタミンCは、以下のような変化が起きます。

ほうれん草を茹でたときの、ビタミンC残存率

・生のほうれん草…ビタミンC 100%
・2分茹でる   …ビタミンC 61%
・5分茹でる   …ビタミンC 40%


一般的には栄養ガイドラインに沿った犬の食事を作ろうとすると、生肉食よりも加熱食の方が、微量栄養素が少ないことから、より多くのサプリメントが必要になる傾向があります。

ほかにも、加熱することで食材に含まれる水分が減ります。

つまり、熱に強い栄養素は、生肉食よりも加熱食のほうが、食材gあたりの栄養素の量が多く含まれていることになります。

そのため、一般的には加熱食の方が生肉食より1日に必要な食事の量(g)が少なくなります。

加熱食は食欲が少ない個体に適している場合があります。

②食材の消化率の違い

犬は、歯や顎の構造の関係上、あまり咀嚼をしません。

また、肉食動物の特徴として挙げられることがある腸が短かいこともあり、犬は植物性食材を消化することが苦手です。

しかし、植物性食材を調理(すりつぶす、加熱する)することで、植物の繊維や細胞壁を破壊することができるため、消化率が上がります。

病人など消化能力が落ちている人は、「おかゆ」を食べた方が良いと言われることがありますね。
これは、炊いたお米よりも、おかゆのほうが消化が良いためです。

また、タンパク質も少しの低温での加熱であれば消化率が上がります。

温泉卵のほうが、生卵よりも消化が良いです

注意点として、タンパク質は高温加熱することで、逆に消化率が下がる傾向があります。

卵で考える消化率💡

Q「生卵」「温泉卵」「ゆで卵」で一番、消化の良いものは?

A.消化が良い順は、「温泉卵」⇒「生卵」⇒「ゆで卵」です。

③調理時間の違い

基本的には、食材を「生」で与えるよりも「加熱調理」することで、食事を作る時間と労力がより必要になります。

そのため、調理時間は「加熱食」の方が生肉食よりも時間が掛かる傾向があります。

よって、飼い主が犬の食餌に時間をかけるのが難しい場合は、生肉食の方が適している場合があります。

④寄生虫や細菌の数の違い

食材を加熱することで、基本的には寄生虫や細菌を死滅させることができます。
つまり、加熱調理は、細菌などの感染リスクを下げることが出来ます。

ところで、健康な犬は「抗菌性のある唾液、強酸性の胃酸、腸内細菌叢の多様性など」により、細菌に対して多くの防御手段が備わっていると考えられています。

例えば、犬の胃腸は強酸性であると言われています。消化中はpH1.0以下になり、場合によっては5時間以上その状態を維持します。

この低いpHは病原性細菌(サルモネラ菌、クロストリジウム、カンピロバクターなど)を死滅させるのに非常に効果的であると示唆されています。

グリフォンハゲワシの研究

Houston氏とCooper氏によると、グリフォンハゲワシはpH1~2と非常に強力な酸性の胃酸を分泌することが出来ます。この強力な酸性により、腐敗した肉にいる病原体への感染リスクを下げることが出来ていると示唆しています。


Houston, D.C. and Cooper, J.E. (1975) The digestive tract of the white back griffon vulture
and its role in disease transmission among wild ungulates. Journal of Wildlife Diseases,
11: 306–313

以上から、健康な犬が生肉を食べるのは、臨床上で問題が起きにくいと言われています。

健康な犬であれば、外で泥遊びをしているときに多少の泥や砂が口内に入っても、病気になるリスクは比較的低いです。

このような例からも、犬は人よりも細菌に対する免疫があることが分かります。

因みに、細菌リスクの低い肉は、「牛肉」や「馬肉」などです。

牛肉や馬肉の筋繊維のなかには、細菌が入りにくいと言われています。

そのため、牛肉・馬肉を表面のみ加熱して生肉として与えることで、細菌感染リスクを大幅に下げることが出来ます。

一方で、ジビエ(鹿やイノシシなどの野生動物)、ブタ、鶏などは、どれだけ新鮮であっても筋繊維のなかまで細菌が入る可能性があります。

そのため、このような種類の肉は避ける方が無難でしょう。

⑤メイラード反応

食材を加熱すると、アミノ酸(タンパク質)と糖(還元糖)が反応して、こんがり茶色く色づき、うま味を生成することを「メイラード反応」といいます。

美味しそうな茶色のホットケーキは、メイラード反応のお陰ですね。


このメイラード反応により、「アクリルミド」という物質が生じるのですが、この物質は動物に癌の症状を引き起こしやすいと言われています。

ただし、グルタチオンという物質は、アクリルミドを排出させる働きがあります。

そのため、食事を加熱してメイラード反応が起きたものを摂取したとしても、グルタチオンの合成を促進させる栄養素や、アクリルミドを低減させる栄養素を積極的に摂取することで、癌を引き起こす大きな問題にはならないと考えることができます。

まとめ

以上のように、加熱食・生肉食の双方にメリット・デメリットはあります。

愛犬の状態(健康状態・好み・食欲・食歴など)によって、使い分けることが理想的であると言えるでしょう。