大阪で活動している認定ドッグビヘイビアリストです。
南イリノイ大学で犬猫の基礎栄養学~臨床栄養学を学び、総合栄養食の手作り食レシピ作成も行っています。
突然ですが、皆さんの愛犬は1日のなかで
どれぐらい自分の行動(環境)をコントロールできるでしょうか?
犬のトレーニングは、体罰(正の弱化)を使用するにせよ、食べ物(正の強化)を使用するにせよ、
飼い主は愛犬の行動をコントロールしなければいけない!
と学んでいる方が多いように見受けられます。
今回は、愛犬の行動(環境)をコントロールしすぎることで、逆に問題行動が起きやすい可能性について、皆さんにシェアしたいと思います。
目次
動物の欲求「環境をコントロールしたい」
いくつかある動物の欲求のうちの1つに
「自分の望む結果を得るために、環境をコントロールしたい欲求」
があります。
動物であるヒトも、この欲求を持っています。
例えば💡
自動販売機にお金を入れて、ボタンを押しても出てこない…
そんなとき、すぐに諦めるのではなく、ボタンを連打しますよね。
この行動は、「自動販売機から飲み物を出したい(環境をコントロールしたい欲求)」から起こる行動であるとも言えます。
環境をコントロールされる影響
もちろん私たち飼い主は、愛犬を危険にさらないように、愛犬のことをコントロールしないといけない場面は、多々あるかと思います。
車がビュンビュン通っている車道を自由に歩かせるわけにはいきません。
ものを齧る犬の近くに電気コードを置きっぱなしにするのもよくありません。
ですが、愛犬へのコントロールが行き過ぎてはいないでしょうか。
(特に意味はないけど)ソファーに乗ったらダメと言われたよ
(犬のしつけ本に書いてたから)寝るときは、ケージで寝ないといけないらしいよ
環境(行動)を「コントロールされる側」の影響について、以下のような研究があります。
・Aのラット…餌や水などの供給を自分で自由にコントロールできる環境。
・Bのラット…餌や水はあるが、供給は自分でコントロールできない環境。
〈結果〉自身で環境をコントロールできるAのラットのほうが、落ち着きがあり、環境の変化に強い傾向があった。
・Aのグループの乳児...頭を動かすことで、ベビーベッドの上にあるモビールをコントリールできる環境。
・Bのグループの乳児...ベビーベッドの上のモビールをコントロールできない環境。
<結果>モビールをコントロールできるAのグループの乳児のほうが、Bのグループの乳児に比べ、笑顔が多く、泣き声も小さかった。
上記の2つの研究は、両グループとも似た環境で過ごしているように見えますが、
環境(行動)のコントロールの選択肢の有無・数で、ストレス・レベルの差が起きていると考えることができます。
Carlstead とShepherdsonによれば、幼少期に自分の意志や判断にもとづいて行動することが極端に少ないと、成長後はストレスの多い出来事に適応できず、新しい状況を積極的に調査・学習することが少ない動物が生まれる可能性があるとされています。
つまり、良かれと思って、愛犬を取り巻く環境や行動を、飼い主がコントロールしすぎることで、かえって問題行動が起きやすい状態を作り出す可能性があるといえるのではないでしょうか。
BAT(ビヘイビア・アジャスメント・トレーニング)
犬が自分自身の安全(環境)をコントロールできるようにすることで、反応性を低減するトレーニング方法として、BAT(ビヘイビア・アジャスメント・トレーニング)があります。
実際に私が行うカウンセリングでも、BATの手法を参考にしています。
この手法を用いたケース💡
1歳の牧羊犬は、動くもの(犬、猫、車など)全てに対しての反応性がかなり強く、動くものが視界に入った瞬間に突撃し、暴れて吠えていました。
行動改善するためには、「環境」そして「安全」を犬自身でコントロールできることを学習できる状況を作り出す必要があります。
そのため、ロングリードを使用しながら、犬自身に行動(環境)をコントロールできることの理解を促すトレーニングしたことで、動くものへの反応がかなり軽減していきました。
以前は苦手な犬が近づいてくると、吠えて突撃していたのが、今では正面から苦手な犬が近づいてくるのが見えると、自分から道を変える行動も増えています。
ロングリードは使用するうえで、注意事項がいくつかありますが、上手く使用できれば非常に効果的なグッズであると、私の経験上じっかんすることが多々あります。
▶BATトレーニングに興味がある人は、詳細な考え・テクニックが書いている書籍を読んでみることをお勧めします。
まとめ
犬が安全に人間の世界で生きていくうえでは、犬自身が環境を全てコントロールすることは難しいです。
飼い主は、保護者として愛犬の安全を確保しなければなりません。
しかし、可能な限り、犬が自分自身で環境(結果)をコントロールできるように調整することで、結果的にヒトの介入に左右されずに良い選択をすることを教えることができます。
残念ながら、オヤツを使用するトレーニングであったとしても、飼い主が犬の行動をコントロールすることを重要視しているものが多くあります。
コントロールしすぎることは学習者(犬)の力を奪うことにもなります。
犬の行動にお困りの場合は、犬自身にいくつかの選択肢を提供したうえで、好ましい行動が出やすい環境を整えるところから始めてみましょう。